2006.08.26 Saturday
試合展開がみるみる暗転していく。カクテル光線が直接差し込まない薄暗いダグアウトの中、福原の視線は空中の何もないところを捉えたまま動くことはい。微動だにしない表情から、「怒り」などという生やさしいものではなく、「憎悪」「怨念」に似たものを発していた。私には福原の体全体が、青白い炎に包まれているように見えた。球場内に溜め息や怒号が響いてもその姿は変わらなかった。
通算100勝のかかるGエース上原と、抜群の安定感でチーム最多の貯金を作って今季10勝目を目指す福原の投げ合い。互いにテンポ良く、要所を締め、意地と意地がぶつかり合った良い投手戦だった。6回裏、それまで上原に対してまったく合っていなかったシーツがセンター左への2ランHRを打ち込み、久々にタイガースを迎えた甲子園は歓喜で溢れる。チームに何があろうと、ここだけは別。またいつものように、藤川球児を大歓声で迎えて、その速球に酔おう、勝利に酔おう…。
とにもかくにも均衡が破れ、試合が動いた。そしてその動いた試合の巨大なエネルギーを、緩やかに受け止める懐の深さこそが今年の福原の強みなのだ。7回表二死、しかし相手エース上原の意地も相当なもの、この日2本目のヒットで塁に出る。二死一塁、迎える左の脇谷は、福原に合うようで二塁打を含む2安打。
ここで岡田監督はウィリアムスへの投手交代を告げる。
この日も関西は暑かった。日中の最高気温は36度。そんな中、福原には過酷なローテを強いている。ドラゴンズ戦に合わせるために、中5日、中4日もやってきた。次も中5日でD戦だ。球数も100球を超えた。これ以上投手を潰すわけにはいかない。
首脳陣としては、「お疲れさん、ナイスピッチング。次もがんばってくれよ」と言ってやりたかったのだろうと思う。
しかし福原は、そう受け取っていなかった。エースとの投げ合いで、完全に勝負に入っていた。チームの信頼を一身に背負い、それを意気に感じて投げるのがエース。「エース対決」に没頭していた。7回二死。二死だ。相手は、出始めの脇谷、非力な鈴木だ。この回はもちろん全うし、そして先にマウンドを降りるのは上原でなけりゃならない。暗黒時代を知る福原にとって、G戦は今でも特別なもの。幼なじみの二岡にも負けたくない。
交代?なぜ?…なぜ?…
「エース扱い」だが、エースではないのか…。エースにこんな交代はないだろう…。
1回裏、赤星のあわやHRかという二塁打、関本の四球で無死一二塁、ここでシーツが注文通り鋭い三ゴロで併殺に倒れ、無得点に終わる。もちろん結果は嘆かわしいが、私としてはOKだ。クリーンアップに好きなように打たせんでどうする…これが岡田野球であると納得できる(もちろん好き嫌いは別)。
試合中盤から後半、大事なところで井川が打ち込まれる。代えることなく逆転され負ける。何度も見た光景だが、私としてはOKだ。「結果だけがすべてじゃない。恐れずに、エースとして最高の勝負を見せてやれ」。これが岡田野球だと思っているから。
1点を取るための戦術、緻密な采配、深謀遠慮…3年目ともなれば、岡田監督にそんなものを求めていない。岡田野球とは、細かいことをグチャグチャ言うな、全体主義なんてクソくらえ、正々堂々1対1の勝負をせい…これに尽きる。この考えが、選手の心に「信頼感」として届けば、強いモチベーションにもなる。それで良い結果が続けば「真の強さ」になっていく。しかし、ひとたび「信頼されていない」という方向に出てしまえば、すべての循環は逆回転となり、恐ろしい結果を招くことになる。
「好き嫌いは別」の岡田野球、私はどちらかと言えば(ちょっと岡田監督は極端が過ぎるが)好きだ。いや、好きになった。「エースが打たれて負けたらしゃあない」私はすでに岡田監督のおかげで、そう考えるようになっている。勝ち負けなんかより、見せたいものがあるやんか!それが岡田監督の魅力だと思う。
代わったジェフは、脇谷にストレートの四球。福原が不服であったように、ジェフの心の中も計り知れないものがある。気持ちで投げるタイプだけに、「オールクリア」が大切な投手だ。ジェフ、久保田が打ち込まれ、逆転され、点差を広げられる。歓喜の甲子園は、抗議のジェット風船が飛び交う不穏な空気。結局、この日藤川を迎えることはなかった。
福原の青白い炎はいつしか消えた。試合が終わって、人影が少なくなったベンチ。福原が見つめていた虚空が巨大化していた。まったく動けない福原の肩を誰かが叩く。我に帰るでもなく、大きく息を吸い込み福原が姿勢を変える。納得はできないだろうが、気持ちは整理できたのだろう。
負けるなよ、タイガースのエース!
通算100勝のかかるGエース上原と、抜群の安定感でチーム最多の貯金を作って今季10勝目を目指す福原の投げ合い。互いにテンポ良く、要所を締め、意地と意地がぶつかり合った良い投手戦だった。6回裏、それまで上原に対してまったく合っていなかったシーツがセンター左への2ランHRを打ち込み、久々にタイガースを迎えた甲子園は歓喜で溢れる。チームに何があろうと、ここだけは別。またいつものように、藤川球児を大歓声で迎えて、その速球に酔おう、勝利に酔おう…。
とにもかくにも均衡が破れ、試合が動いた。そしてその動いた試合の巨大なエネルギーを、緩やかに受け止める懐の深さこそが今年の福原の強みなのだ。7回表二死、しかし相手エース上原の意地も相当なもの、この日2本目のヒットで塁に出る。二死一塁、迎える左の脇谷は、福原に合うようで二塁打を含む2安打。
ここで岡田監督はウィリアムスへの投手交代を告げる。
この日も関西は暑かった。日中の最高気温は36度。そんな中、福原には過酷なローテを強いている。ドラゴンズ戦に合わせるために、中5日、中4日もやってきた。次も中5日でD戦だ。球数も100球を超えた。これ以上投手を潰すわけにはいかない。
首脳陣としては、「お疲れさん、ナイスピッチング。次もがんばってくれよ」と言ってやりたかったのだろうと思う。
しかし福原は、そう受け取っていなかった。エースとの投げ合いで、完全に勝負に入っていた。チームの信頼を一身に背負い、それを意気に感じて投げるのがエース。「エース対決」に没頭していた。7回二死。二死だ。相手は、出始めの脇谷、非力な鈴木だ。この回はもちろん全うし、そして先にマウンドを降りるのは上原でなけりゃならない。暗黒時代を知る福原にとって、G戦は今でも特別なもの。幼なじみの二岡にも負けたくない。
交代?なぜ?…なぜ?…
「エース扱い」だが、エースではないのか…。エースにこんな交代はないだろう…。
1回裏、赤星のあわやHRかという二塁打、関本の四球で無死一二塁、ここでシーツが注文通り鋭い三ゴロで併殺に倒れ、無得点に終わる。もちろん結果は嘆かわしいが、私としてはOKだ。クリーンアップに好きなように打たせんでどうする…これが岡田野球であると納得できる(もちろん好き嫌いは別)。
試合中盤から後半、大事なところで井川が打ち込まれる。代えることなく逆転され負ける。何度も見た光景だが、私としてはOKだ。「結果だけがすべてじゃない。恐れずに、エースとして最高の勝負を見せてやれ」。これが岡田野球だと思っているから。
1点を取るための戦術、緻密な采配、深謀遠慮…3年目ともなれば、岡田監督にそんなものを求めていない。岡田野球とは、細かいことをグチャグチャ言うな、全体主義なんてクソくらえ、正々堂々1対1の勝負をせい…これに尽きる。この考えが、選手の心に「信頼感」として届けば、強いモチベーションにもなる。それで良い結果が続けば「真の強さ」になっていく。しかし、ひとたび「信頼されていない」という方向に出てしまえば、すべての循環は逆回転となり、恐ろしい結果を招くことになる。
「好き嫌いは別」の岡田野球、私はどちらかと言えば(ちょっと岡田監督は極端が過ぎるが)好きだ。いや、好きになった。「エースが打たれて負けたらしゃあない」私はすでに岡田監督のおかげで、そう考えるようになっている。勝ち負けなんかより、見せたいものがあるやんか!それが岡田監督の魅力だと思う。
代わったジェフは、脇谷にストレートの四球。福原が不服であったように、ジェフの心の中も計り知れないものがある。気持ちで投げるタイプだけに、「オールクリア」が大切な投手だ。ジェフ、久保田が打ち込まれ、逆転され、点差を広げられる。歓喜の甲子園は、抗議のジェット風船が飛び交う不穏な空気。結局、この日藤川を迎えることはなかった。
福原の青白い炎はいつしか消えた。試合が終わって、人影が少なくなったベンチ。福原が見つめていた虚空が巨大化していた。まったく動けない福原の肩を誰かが叩く。我に帰るでもなく、大きく息を吸い込み福原が姿勢を変える。納得はできないだろうが、気持ちは整理できたのだろう。
負けるなよ、タイガースのエース!