2006.10.08 Sunday
完投完封のG内海に対し、Tはオクスプリング、吉野、桟原、江草、ダーウィンがまんべんなく打たれ、ファンの罵声を浴び、やがて罵声すらなくなった。この日、ファンと選手を結びつけていた鎖は切断され、甲子園球場は荒みきっていた。
翌日、その荒れ野原に一粒の種が芽を出す。強風にも雑踏にも干ばつにもめげない杉山の笑顔。そして乾ききった土に水分が染み込む。言葉にならない球児の涙。切れた鎖をもう一度繋ぎ直そうとする作業が始まった。選手たちは必死に力を振り絞った。ファンもそれに応えて必死で応援した。選手はまたその応援に応えた。あの日から22勝4敗1分。一度切れた鎖は完全に繋がり、かつて無い強さで結ばれた。甲子園に内海を迎えよう。
再任したG原監督は、「甲子園でタイガースに勝たない限り、ジャイアンツの復権はない」と明言した。ここまでの対戦成績10勝10敗、残り2試合。落とせば勝ち越しはなくなる。彼らにとっても単なる消化試合ではない。
T福原、G内海ともに無難な立ち上がり。2回表、李、高橋がいずれも福原の直球を捉え右前ヒット、無死一二塁。小久保、阿部を退け二死一二塁、ここで場内の空気を一変させるようなプレーが出る。川中が放った打球はショート後方への力無いフライ、トップスピードで地を這うように前進した赤星が最後は頭から飛び込みダイレクトキャッチ。映像には、赤星の後ろで、レフトの金本がトップスピードでバックアップに回る様子も映っていた。もし赤星が後逸していても、おそらくシングルで止めていただろう。赤星が思いっきり突っ込めたのは、金本への信頼があったからでもある。赤星の1打点に相当するプレーで、球場との一体感を倍加させた。
二回裏、先頭の金本は押されていた。今季すでに12勝をあげ独り立ちした内海は、勇気を持って緩いカーブを投げ込んでくる。7球目の直球、やや差し込まれた打球は金本らしくない高いフライでライト後方を襲う。夏の気配がまったくなくなった甲子園には、左打者を苦しめた浜風はなく、ホームからセンターへのホームラン風が吹いていた。実に金本らしくない、やっとフェンスを越えた先制ホームラン。この際、当たりなんてどうでも良い。
4回ウラ、一死後、濱中が記念すべき20号HRをレフトボール際に放り込む。春先の様子からは、まさか20号が残り数試合のタイミングで出るとは思わなかったけどね(笑)。それにしても濱中の打撃は天才的。高く抜けてしまったと言っても、内へ切れ込んでくる緩いカーブ。濱中のスイングには、下半身のタメでタイミングを合わせるゆとりがある。また、体に近い球でもバットの芯にボールを合わせられるのは、上半身の構えにもゆとりがあるのだろう。インサイドのボールに対し、上下のタイミングを微妙にずらして、開かない軸回転でボールを運びながら、高く上げて切れていかない。矛盾だらけの打撃をいとも簡単にやってのける。田淵もこんな感じだったように思う。中軸の二発で2−0。
福原は3回4回はすんなり三者凡退。ところが5回は突然制球に苦しみ始め無死満塁のピンチを招く。内海三振で一死、続く脇谷へはインハイ直球を勝負球にして4−6−3のゲッツーに仕留める。インハイで二ゴロを獲ったのは偶然か、狙い通りか?最近矢野のリードが当たっているので、脇谷の調子を見定めた上での狙い通りだったような気もする。
さらに6回表、福原またも無死満塁のピンチ。高橋、ちょっとへんな当たりの三ゴロ、関本バックホームで一つアウトは賢明な判断。関本の守備への信頼度は急上昇している。前は判断の悪いプレーも多かったけど、やはり経験がものを言ってきたかな、一死。続く小久保の打球は三遊間、ところが、鳥谷が地上スレスレ横っ飛びでこれをスーパーキャッチ。打球方向からすれば、抜ければ2点入ったかも知れない。2打点球のビッグプレーだった。阿部二ゴロでこの回も無失点。いや、すごかった。福原は13勝目の権利をもったまま、この回で降板。
7回表はジェフが三者凡退、7回ウラからGは林に交代、三者凡退。8回表、ジェフは一死後二岡にヒット、李凡退で二死、しかしここでヨシノブにまさかの同点HRを打たれる。初球、なんとなく投げた速球が真ん中に。高橋にしたって、何となく振ってみたのが当たっちゃったって感じだった。低いライナーがレフトスタンドに飛び込んだ。2−2。なんともそこにいる人たち全員が、事態を理解できていないような雰囲気。2−2というスコアを受け入れがたい…。
福原の勝ちが消えた。ジェフが消してしまった。春先、故障のために出遅れた二人、しかしその後復活してからは間違いなくチームを支えてきた二人。真っ白な空気が、鎖の緩みを作ってしまうのかと思ったが、もう死ぬことにも慣れすぎたタイガース野手陣には何のショックもなかったようだ。
8回ウラ、G投手は久保。何度も粉砕した投手だが、原監督はずいぶんと辛抱して使っている。確かに球種も多く良い投手だと思うが、タイガースにすれば久保なら打てるという気になっただろう。代打桧山で一気に球場のボルテージを上げる。久保の動揺指数も上げる。桧山凡退後、赤星がヒット。一死一塁から関本には迷いなくバント。先日来、終盤1点が欲しいところでは、二死にしても赤星を二塁に置くと徹底している。腹を決めた時の岡田采配には、選手の気持ちを動かす力がある。
そしてその信念の采配は、スタンドの力をも結集させる。シーツの打席、投球前、応援団のリードではなく、声援とメガホン連打が自然発生し、急激に大きくなり、恐ろしい大音声になった。これに焦ったか久保が暴投、走者は労せずして三塁へ。ファンが作った1ベースだった。騒然とした雰囲気の中、アンディがセンター前ヒット、再び1点リード。観客たちは知っている。この1点が自分たちも一緒になって作ったものであることを。
一丸となった甲子園は、さらに久保を飲み込む。金本、フォークのように鋭く落ちたスライダーだったが、その軌道が始めからわかっていたかのようなフルスイング&ジャストミート、ティーアップしたボールをチタンヘッドと硬いシャフトのドライバーで引っぱたいたかのような打球がぎゅーーーんと唸りを上げながら左中間スタンドに飛び込む。あっという間に5−2となった。あのインパクトの瞬間の集中は、人間じゃなかった。
9回表は藤川。カーブ、フォークを混ぜての投球だったが、代打清水に直球を狙い打たれソロHRを打たれる。また小関にもヒットを打たれ、一発同点の場面を作ってしまうが、こんな状態でも他球団のクローザーに決してひけをとらないということを忘れないで欲しい。
ヒーローインタビューの途中、アナが「ドラゴンズ逆転される」を伝える。またしても騒然とするスタンド。金本は「12日の試合を今年一番盛り上がる試合にします」と大きな声で宣言した。誰もがその言葉を素直に信じた。あの日から23勝4敗1分。全部勝つという言葉を疑う者もいないのだから、当たり前のことである。
翌日、その荒れ野原に一粒の種が芽を出す。強風にも雑踏にも干ばつにもめげない杉山の笑顔。そして乾ききった土に水分が染み込む。言葉にならない球児の涙。切れた鎖をもう一度繋ぎ直そうとする作業が始まった。選手たちは必死に力を振り絞った。ファンもそれに応えて必死で応援した。選手はまたその応援に応えた。あの日から22勝4敗1分。一度切れた鎖は完全に繋がり、かつて無い強さで結ばれた。甲子園に内海を迎えよう。
再任したG原監督は、「甲子園でタイガースに勝たない限り、ジャイアンツの復権はない」と明言した。ここまでの対戦成績10勝10敗、残り2試合。落とせば勝ち越しはなくなる。彼らにとっても単なる消化試合ではない。
T福原、G内海ともに無難な立ち上がり。2回表、李、高橋がいずれも福原の直球を捉え右前ヒット、無死一二塁。小久保、阿部を退け二死一二塁、ここで場内の空気を一変させるようなプレーが出る。川中が放った打球はショート後方への力無いフライ、トップスピードで地を這うように前進した赤星が最後は頭から飛び込みダイレクトキャッチ。映像には、赤星の後ろで、レフトの金本がトップスピードでバックアップに回る様子も映っていた。もし赤星が後逸していても、おそらくシングルで止めていただろう。赤星が思いっきり突っ込めたのは、金本への信頼があったからでもある。赤星の1打点に相当するプレーで、球場との一体感を倍加させた。
二回裏、先頭の金本は押されていた。今季すでに12勝をあげ独り立ちした内海は、勇気を持って緩いカーブを投げ込んでくる。7球目の直球、やや差し込まれた打球は金本らしくない高いフライでライト後方を襲う。夏の気配がまったくなくなった甲子園には、左打者を苦しめた浜風はなく、ホームからセンターへのホームラン風が吹いていた。実に金本らしくない、やっとフェンスを越えた先制ホームラン。この際、当たりなんてどうでも良い。
4回ウラ、一死後、濱中が記念すべき20号HRをレフトボール際に放り込む。春先の様子からは、まさか20号が残り数試合のタイミングで出るとは思わなかったけどね(笑)。それにしても濱中の打撃は天才的。高く抜けてしまったと言っても、内へ切れ込んでくる緩いカーブ。濱中のスイングには、下半身のタメでタイミングを合わせるゆとりがある。また、体に近い球でもバットの芯にボールを合わせられるのは、上半身の構えにもゆとりがあるのだろう。インサイドのボールに対し、上下のタイミングを微妙にずらして、開かない軸回転でボールを運びながら、高く上げて切れていかない。矛盾だらけの打撃をいとも簡単にやってのける。田淵もこんな感じだったように思う。中軸の二発で2−0。
福原は3回4回はすんなり三者凡退。ところが5回は突然制球に苦しみ始め無死満塁のピンチを招く。内海三振で一死、続く脇谷へはインハイ直球を勝負球にして4−6−3のゲッツーに仕留める。インハイで二ゴロを獲ったのは偶然か、狙い通りか?最近矢野のリードが当たっているので、脇谷の調子を見定めた上での狙い通りだったような気もする。
さらに6回表、福原またも無死満塁のピンチ。高橋、ちょっとへんな当たりの三ゴロ、関本バックホームで一つアウトは賢明な判断。関本の守備への信頼度は急上昇している。前は判断の悪いプレーも多かったけど、やはり経験がものを言ってきたかな、一死。続く小久保の打球は三遊間、ところが、鳥谷が地上スレスレ横っ飛びでこれをスーパーキャッチ。打球方向からすれば、抜ければ2点入ったかも知れない。2打点球のビッグプレーだった。阿部二ゴロでこの回も無失点。いや、すごかった。福原は13勝目の権利をもったまま、この回で降板。
7回表はジェフが三者凡退、7回ウラからGは林に交代、三者凡退。8回表、ジェフは一死後二岡にヒット、李凡退で二死、しかしここでヨシノブにまさかの同点HRを打たれる。初球、なんとなく投げた速球が真ん中に。高橋にしたって、何となく振ってみたのが当たっちゃったって感じだった。低いライナーがレフトスタンドに飛び込んだ。2−2。なんともそこにいる人たち全員が、事態を理解できていないような雰囲気。2−2というスコアを受け入れがたい…。
福原の勝ちが消えた。ジェフが消してしまった。春先、故障のために出遅れた二人、しかしその後復活してからは間違いなくチームを支えてきた二人。真っ白な空気が、鎖の緩みを作ってしまうのかと思ったが、もう死ぬことにも慣れすぎたタイガース野手陣には何のショックもなかったようだ。
8回ウラ、G投手は久保。何度も粉砕した投手だが、原監督はずいぶんと辛抱して使っている。確かに球種も多く良い投手だと思うが、タイガースにすれば久保なら打てるという気になっただろう。代打桧山で一気に球場のボルテージを上げる。久保の動揺指数も上げる。桧山凡退後、赤星がヒット。一死一塁から関本には迷いなくバント。先日来、終盤1点が欲しいところでは、二死にしても赤星を二塁に置くと徹底している。腹を決めた時の岡田采配には、選手の気持ちを動かす力がある。
そしてその信念の采配は、スタンドの力をも結集させる。シーツの打席、投球前、応援団のリードではなく、声援とメガホン連打が自然発生し、急激に大きくなり、恐ろしい大音声になった。これに焦ったか久保が暴投、走者は労せずして三塁へ。ファンが作った1ベースだった。騒然とした雰囲気の中、アンディがセンター前ヒット、再び1点リード。観客たちは知っている。この1点が自分たちも一緒になって作ったものであることを。
一丸となった甲子園は、さらに久保を飲み込む。金本、フォークのように鋭く落ちたスライダーだったが、その軌道が始めからわかっていたかのようなフルスイング&ジャストミート、ティーアップしたボールをチタンヘッドと硬いシャフトのドライバーで引っぱたいたかのような打球がぎゅーーーんと唸りを上げながら左中間スタンドに飛び込む。あっという間に5−2となった。あのインパクトの瞬間の集中は、人間じゃなかった。
9回表は藤川。カーブ、フォークを混ぜての投球だったが、代打清水に直球を狙い打たれソロHRを打たれる。また小関にもヒットを打たれ、一発同点の場面を作ってしまうが、こんな状態でも他球団のクローザーに決してひけをとらないということを忘れないで欲しい。
ヒーローインタビューの途中、アナが「ドラゴンズ逆転される」を伝える。またしても騒然とするスタンド。金本は「12日の試合を今年一番盛り上がる試合にします」と大きな声で宣言した。誰もがその言葉を素直に信じた。あの日から23勝4敗1分。全部勝つという言葉を疑う者もいないのだから、当たり前のことである。