2007.05.05 Saturday
そこでフェルナンデスが出てきてから流れが変わってしまった。だからなんとしてもフェルナンデスを引きずり降ろさなきゃいけなかった。
何も普通に打たなくたって良い。弱点は、四球、守備のフットワーク、下半身のスタミナ、走者を出してからの暴投やパスボール、盗塁。自滅が期待できないのなら、ただ打ちに行って術中にはまるのは愚の愚。私が監督なら、1番から9番まで全員に1球ごとセーフティバントの構えをさせ、ストライクの球だけを1塁線上ぎりぎりファールになるくらいにバントさせる。とにかくマウンドから駆け降ろさせ、打球を負わせ、ベースカバーに走らせ、マウンド上でふうふういわせる。ファールで1ストライク取られても、もう一度同じことをやらせる。さらにスリーバントでも投前にバントさせる。1巡終わる頃には何点か入ってるような気がするし、その後2巡目からは強打を交えても良い。相手が自滅するなり、球に目が慣れるなり、相手の守備位置がおかしくなったり、何かしら事態が変わってくるだろう。打てない球を打ったって打てないし、打てたところで次に繋がるわけでもない。
先発福原が序盤で3点を失う。継投も渡辺・江草で失敗し、6回表終わって0−7。超満員の甲子園はすでに絶望的な空気。しかし6回ウラ先頭赤星がフェルナンデスのナックルをファールで逃げて、最後焦れた直球を二塁打して、かすかな希望。しかしシーツの平凡すぎる左飛でまた絶望的な気分、しかし「金本なら」という願望に近い希望の中四球で繋ぎ、パスボールもあって一死二三塁。しかし今岡の何の役にも立たない左飛でまたも絶望。しかし二死二三塁で林。この今岡から林へと向かう時に感じる、地獄で天使に会うような感覚は何なんだろう。ここで林が流れを変える2点タイムリー。さらにパスボールを挟んで矢野が「林リズム」に乗ったタイムリー。バックアップに走ったフェルナンデスふくらはぎを痛めて交代、広池。ここで藤本に代えて狩野。3−7二死一塁、ここで狩野に代打HRが出ればなぁ2点差になって、ぐっと勢いがついて…と都合の良い希望を脳内に展開していると、カーン行ったー!まばゆい光を放ちながら打球がレフトスタンドに吸い込まれる。本当に打った。なんだかスゴイものを見た気がした。
勇気が湧いて、希望が満ちた7回表、その光が眩しすぎたばかりに、次に来た絶望の闇は深すぎた。2点ビハインド、ここで久保田を使うことにもはや異存はない。しかし先頭新井を直球で2−0と追い込んで、さらに直球のファールの後、3つ続けたスライダー、最後は上手く下半身でタイミングを合わせられ、まさかのレフトオーバー。打った新井は凄い。だがここは久保田が凄いものを見せなきゃいけない場面だった。それは打たれるかどうかとは関係なく、この試合絶対に負けないという気迫のこもった直球。待たれていてもフェンスまでは持って行かせない直球だったと思う。
失意の久保田。ここでようやく気迫の直球を投げ始める。悔しいんだよな。しかし前田に技ありのセンター前。久保田のグラブをかすめたが仕方ない。森笠はセンターへ、嶋はセカンドへ、いずれもライナー性の打球を合わせられるが、ボールの勢いが押し込んでいる分野手が捕れた。二死一塁。石原の打球は三遊間、打球のコースとしては、絶妙な三遊間だったのかも知れない。しかし今岡の追い方、反応の悪さ、フットワークの無様さが、その打球をヒットだと認めることを私に拒絶させた。ここしばらくの今岡の反応、フットワークは去年のままだ。守備で足腰を鍛えたというオフの成果はどこへ行った…新井の一発は仕方ない、しかしこのヒットで今また私は闇に支配されていた。二死一二塁、代打尾形、最後インロースライダーは惜しかったが、結局「弱気サイド」に外れて四球。闇の力が久保田の指先にも働いたような気がした。
二死満塁で梵。久保田は渾身の直球を投げ続けた。それで良いと思った。矢野もようやく開き直ったようだった。2−2からの7球目直球、まん中寄りに入る。右中間に弾き返されるが、押し返している、赤星追う、赤星追う、捕れる…全速力で交互する赤星の両足、普段なら躊躇無く一直線に落下点に向かうのに、ほんの一瞬緩み、ほんのわずかに弧を描くように膨らみ、そしてダイブ。短く芝でバウンドしたボールが赤星のグラブに当たり体の下を転がった。赤星はそのボールをやっとのことで拾い上げ、近くまで追ってきた林にトス。返球。塁上を走る走者たち。プレーが終わった後も、赤星はその後うずくまったままだった。
ほんの一瞬の出来事だったが、赤星にとっては永遠に感じたかも知れない。痛みと痺れで赤星を苦しめる頸椎椎間板ヘルニア、生死の危険を伴う手術以外に決定的な治療法もなく、悪くすれば歩行にも困難をきたしかねない病。もはやこの病とともにプロ野球選手としての生活をしていくのだと決心した時から、常にこの瞬間が来たらどうするのか、その選択を迫られていたと思う。同じダイビングでも十分な受け身が取れる時と、ギリギリ精一杯の時とでは体に与える衝撃が違う。ボールを追う間、赤星が何を考えていたのだろう。それがあの一瞬のふくらみであり、そしてその後のダイビングだったのだと思う。
まともに歩けないような状態のまま、担がれながら赤星が退場した。私の心は真っ暗闇になった。連敗なんてどうだって良い。借金なんて増えたってかまいやしない。
どうかまたダイヤモンドを、芝生の上をトップスピードで駆けめぐる赤星が戻って来てくれるように。それだけを願っている。
何も普通に打たなくたって良い。弱点は、四球、守備のフットワーク、下半身のスタミナ、走者を出してからの暴投やパスボール、盗塁。自滅が期待できないのなら、ただ打ちに行って術中にはまるのは愚の愚。私が監督なら、1番から9番まで全員に1球ごとセーフティバントの構えをさせ、ストライクの球だけを1塁線上ぎりぎりファールになるくらいにバントさせる。とにかくマウンドから駆け降ろさせ、打球を負わせ、ベースカバーに走らせ、マウンド上でふうふういわせる。ファールで1ストライク取られても、もう一度同じことをやらせる。さらにスリーバントでも投前にバントさせる。1巡終わる頃には何点か入ってるような気がするし、その後2巡目からは強打を交えても良い。相手が自滅するなり、球に目が慣れるなり、相手の守備位置がおかしくなったり、何かしら事態が変わってくるだろう。打てない球を打ったって打てないし、打てたところで次に繋がるわけでもない。
先発福原が序盤で3点を失う。継投も渡辺・江草で失敗し、6回表終わって0−7。超満員の甲子園はすでに絶望的な空気。しかし6回ウラ先頭赤星がフェルナンデスのナックルをファールで逃げて、最後焦れた直球を二塁打して、かすかな希望。しかしシーツの平凡すぎる左飛でまた絶望的な気分、しかし「金本なら」という願望に近い希望の中四球で繋ぎ、パスボールもあって一死二三塁。しかし今岡の何の役にも立たない左飛でまたも絶望。しかし二死二三塁で林。この今岡から林へと向かう時に感じる、地獄で天使に会うような感覚は何なんだろう。ここで林が流れを変える2点タイムリー。さらにパスボールを挟んで矢野が「林リズム」に乗ったタイムリー。バックアップに走ったフェルナンデスふくらはぎを痛めて交代、広池。ここで藤本に代えて狩野。3−7二死一塁、ここで狩野に代打HRが出ればなぁ2点差になって、ぐっと勢いがついて…と都合の良い希望を脳内に展開していると、カーン行ったー!まばゆい光を放ちながら打球がレフトスタンドに吸い込まれる。本当に打った。なんだかスゴイものを見た気がした。
勇気が湧いて、希望が満ちた7回表、その光が眩しすぎたばかりに、次に来た絶望の闇は深すぎた。2点ビハインド、ここで久保田を使うことにもはや異存はない。しかし先頭新井を直球で2−0と追い込んで、さらに直球のファールの後、3つ続けたスライダー、最後は上手く下半身でタイミングを合わせられ、まさかのレフトオーバー。打った新井は凄い。だがここは久保田が凄いものを見せなきゃいけない場面だった。それは打たれるかどうかとは関係なく、この試合絶対に負けないという気迫のこもった直球。待たれていてもフェンスまでは持って行かせない直球だったと思う。
失意の久保田。ここでようやく気迫の直球を投げ始める。悔しいんだよな。しかし前田に技ありのセンター前。久保田のグラブをかすめたが仕方ない。森笠はセンターへ、嶋はセカンドへ、いずれもライナー性の打球を合わせられるが、ボールの勢いが押し込んでいる分野手が捕れた。二死一塁。石原の打球は三遊間、打球のコースとしては、絶妙な三遊間だったのかも知れない。しかし今岡の追い方、反応の悪さ、フットワークの無様さが、その打球をヒットだと認めることを私に拒絶させた。ここしばらくの今岡の反応、フットワークは去年のままだ。守備で足腰を鍛えたというオフの成果はどこへ行った…新井の一発は仕方ない、しかしこのヒットで今また私は闇に支配されていた。二死一二塁、代打尾形、最後インロースライダーは惜しかったが、結局「弱気サイド」に外れて四球。闇の力が久保田の指先にも働いたような気がした。
二死満塁で梵。久保田は渾身の直球を投げ続けた。それで良いと思った。矢野もようやく開き直ったようだった。2−2からの7球目直球、まん中寄りに入る。右中間に弾き返されるが、押し返している、赤星追う、赤星追う、捕れる…全速力で交互する赤星の両足、普段なら躊躇無く一直線に落下点に向かうのに、ほんの一瞬緩み、ほんのわずかに弧を描くように膨らみ、そしてダイブ。短く芝でバウンドしたボールが赤星のグラブに当たり体の下を転がった。赤星はそのボールをやっとのことで拾い上げ、近くまで追ってきた林にトス。返球。塁上を走る走者たち。プレーが終わった後も、赤星はその後うずくまったままだった。
ほんの一瞬の出来事だったが、赤星にとっては永遠に感じたかも知れない。痛みと痺れで赤星を苦しめる頸椎椎間板ヘルニア、生死の危険を伴う手術以外に決定的な治療法もなく、悪くすれば歩行にも困難をきたしかねない病。もはやこの病とともにプロ野球選手としての生活をしていくのだと決心した時から、常にこの瞬間が来たらどうするのか、その選択を迫られていたと思う。同じダイビングでも十分な受け身が取れる時と、ギリギリ精一杯の時とでは体に与える衝撃が違う。ボールを追う間、赤星が何を考えていたのだろう。それがあの一瞬のふくらみであり、そしてその後のダイビングだったのだと思う。
まともに歩けないような状態のまま、担がれながら赤星が退場した。私の心は真っ暗闇になった。連敗なんてどうだって良い。借金なんて増えたってかまいやしない。
どうかまたダイヤモンドを、芝生の上をトップスピードで駆けめぐる赤星が戻って来てくれるように。それだけを願っている。