2005.06.04 Saturday
「勝負の6月」多くの評論家や解説者がこの時期の重要性を言う。特に今年は1ヶ月以上に及ぶ交流試合期間が終わり、「第二の開幕」があり、ペナントレースの順位が大きく変動する可能性がある。
この日、ヤクルトの五十嵐・石井、中日の岡本・岩瀬、阪神の藤川・ウィリアムスが揃って失点。好不調のうねりが交錯する時期でもあるのだろう。
前日の頭部死球騒ぎの中、金本が5月の月間MVPに選ばれた。交流戦期間に入り、知らない投手との対戦に備え、コンパクトなスイングで対応しようとしたことが高打率に繋がった。ムチャ振りしなくても、的確にミートすれば金本にとってフェンスなんて近いもの。また自分で決めようとせず、今岡に繋ごうという意識も良い方に働いた。
非常にエネルギーの絶対量が高い試合だった。さまざまな人のさまざまな思いがグラウンドに、スタンドに結集して、1試合の中で燃え上がった。甲子園球場は、スリバチの形をした「るつぼ」だった。
ここまで無類の強さを示していた甲子園で、ホークスに3タテを喰らった。特に前日の試合は、大差を追い上げ、金本の死球に全員が逆転への気持ちを結集したのに一歩及ばない悔しい敗戦。怒りにも似たパワーが充満していた。
一方マリーンズ・サポーターの純粋な思いが、いつもの甲子園球場とは違う空気を作りだしていた。「あの甲子園球場」では、マリーンズ・ナインが実力を発揮できないかも知れない。自分たちが最高の応援をしなければ…。心を一つにした力強い歌声からその思いが伝わってきた。沿革を返り見ても、関西とは縁もゆかりもない球団。その応援団が大挙レフトスタンドに陣し、その映像と音声で作りだした存在感がこの試合の土台を形成したのは間違いない。
ヒーロー今岡は、インタビューで多くを語ろうとしなかった。もちろんいろいろな思いは後から後からこみ上げていただろう。しかしどんな言葉もその思いを伝えきれないし、言葉にすること自体がその思いを「安くする」ような気がしたのではないだろうか。正直に言えば、私もまったく同じ気持ちである。「金本敬遠に怒り」「打点王のプライド」「金本との約束」「勝利への執念」「連敗脱出へ究極の集中」…。どれもそのとおりかもしれない。しかしどんなに言葉を並べたところで、正しく表現しきれない、そんな今岡の一振りだった。
「四球とか考えずに打者と勝負することに専念した。思いっ切り投げた」久保田投手のコメント。
8回表二死満塁、リードは3点、迎えるは4番ベニー。絶対のストッパーなら、まだそんなに苦しい場面ではないかも知れない。しかしここまでクローザーとして万全の働きをしていない久保田にとっては、ウィリアムスが残した大ピンチを切り抜けることは難しいように思えた。
この日のベニーなら、アウトローのストライクから外に外れるスライダーを投げておけば三振を取れると矢野は踏んでいただろう。150km/h超の直球を「来る来る」と思わせて投げないリードは巧みだった。しかし久保田の制球がおぼつかない。逆球もありながらスライダーばかり4球続けて2−2。確かにベニーはボール球に手を出していたが、この場面それぐらいアグレッシブでなくてはいけない。さすがに強いチームの4番だ。
矢野は5球目、アウトローの直球で勝負を決めにかかった。渾身の力を込めたストレートは、久保田の意志とは違い、真ん中高めに浮く。ベニーはこれを強振するがファール。高すぎたのが幸いした。ベニーは完全にバトルモードに入っている。バットが届く範囲なら必ず打つという気迫があふれる。気圧された矢野は6球目フォークを振らせようとする。目先を変えてということだろう。直球もスライダーも甘く入る可能性が否定できないための消極的選択に見えた。弱気は久保田にも伝わったか、結果、高さ(ワンバウンド)は良かったが、外に完全に外れベニーは悠然と見送る。2−3。
ここでようやく久保田の生存本能が呼び覚まされたように感じた。相手は明らかに「押し出しなんて要らない」と考えている。自分だって押し出しをやるくらいなら、満塁HRを打たれた方がまだマシだ。真剣勝負して負けたのなら悔いはない。アウトローにスライダーを決められれば勝ちだ。7球目、だがスライダーはインハイに抜ける。ファール。もはやこの時点で久保田は何も考えていないようだった。見えるのはベニーと、これから自分が投げるスライダーの軌道だけ。8球目のスライダーが、そのコース上を滑るとベニーのバットが空を切った。
大仕事を追えた久保田は、9回を当然のように3人で抑え、今までもずっとそうであったかのように堂々と勝利の握手をした。
「明日も勝ちますのでよろしくお願いします」ヒーローインタビューの最後に、久保田が珍しく叫んだ。本当はもっともっと大声で叫びたかったんだろうと思った。
この日、ヤクルトの五十嵐・石井、中日の岡本・岩瀬、阪神の藤川・ウィリアムスが揃って失点。好不調のうねりが交錯する時期でもあるのだろう。
前日の頭部死球騒ぎの中、金本が5月の月間MVPに選ばれた。交流戦期間に入り、知らない投手との対戦に備え、コンパクトなスイングで対応しようとしたことが高打率に繋がった。ムチャ振りしなくても、的確にミートすれば金本にとってフェンスなんて近いもの。また自分で決めようとせず、今岡に繋ごうという意識も良い方に働いた。
非常にエネルギーの絶対量が高い試合だった。さまざまな人のさまざまな思いがグラウンドに、スタンドに結集して、1試合の中で燃え上がった。甲子園球場は、スリバチの形をした「るつぼ」だった。
ここまで無類の強さを示していた甲子園で、ホークスに3タテを喰らった。特に前日の試合は、大差を追い上げ、金本の死球に全員が逆転への気持ちを結集したのに一歩及ばない悔しい敗戦。怒りにも似たパワーが充満していた。
一方マリーンズ・サポーターの純粋な思いが、いつもの甲子園球場とは違う空気を作りだしていた。「あの甲子園球場」では、マリーンズ・ナインが実力を発揮できないかも知れない。自分たちが最高の応援をしなければ…。心を一つにした力強い歌声からその思いが伝わってきた。沿革を返り見ても、関西とは縁もゆかりもない球団。その応援団が大挙レフトスタンドに陣し、その映像と音声で作りだした存在感がこの試合の土台を形成したのは間違いない。
ヒーロー今岡は、インタビューで多くを語ろうとしなかった。もちろんいろいろな思いは後から後からこみ上げていただろう。しかしどんな言葉もその思いを伝えきれないし、言葉にすること自体がその思いを「安くする」ような気がしたのではないだろうか。正直に言えば、私もまったく同じ気持ちである。「金本敬遠に怒り」「打点王のプライド」「金本との約束」「勝利への執念」「連敗脱出へ究極の集中」…。どれもそのとおりかもしれない。しかしどんなに言葉を並べたところで、正しく表現しきれない、そんな今岡の一振りだった。
「四球とか考えずに打者と勝負することに専念した。思いっ切り投げた」久保田投手のコメント。
8回表二死満塁、リードは3点、迎えるは4番ベニー。絶対のストッパーなら、まだそんなに苦しい場面ではないかも知れない。しかしここまでクローザーとして万全の働きをしていない久保田にとっては、ウィリアムスが残した大ピンチを切り抜けることは難しいように思えた。
この日のベニーなら、アウトローのストライクから外に外れるスライダーを投げておけば三振を取れると矢野は踏んでいただろう。150km/h超の直球を「来る来る」と思わせて投げないリードは巧みだった。しかし久保田の制球がおぼつかない。逆球もありながらスライダーばかり4球続けて2−2。確かにベニーはボール球に手を出していたが、この場面それぐらいアグレッシブでなくてはいけない。さすがに強いチームの4番だ。
矢野は5球目、アウトローの直球で勝負を決めにかかった。渾身の力を込めたストレートは、久保田の意志とは違い、真ん中高めに浮く。ベニーはこれを強振するがファール。高すぎたのが幸いした。ベニーは完全にバトルモードに入っている。バットが届く範囲なら必ず打つという気迫があふれる。気圧された矢野は6球目フォークを振らせようとする。目先を変えてということだろう。直球もスライダーも甘く入る可能性が否定できないための消極的選択に見えた。弱気は久保田にも伝わったか、結果、高さ(ワンバウンド)は良かったが、外に完全に外れベニーは悠然と見送る。2−3。
ここでようやく久保田の生存本能が呼び覚まされたように感じた。相手は明らかに「押し出しなんて要らない」と考えている。自分だって押し出しをやるくらいなら、満塁HRを打たれた方がまだマシだ。真剣勝負して負けたのなら悔いはない。アウトローにスライダーを決められれば勝ちだ。7球目、だがスライダーはインハイに抜ける。ファール。もはやこの時点で久保田は何も考えていないようだった。見えるのはベニーと、これから自分が投げるスライダーの軌道だけ。8球目のスライダーが、そのコース上を滑るとベニーのバットが空を切った。
大仕事を追えた久保田は、9回を当然のように3人で抑え、今までもずっとそうであったかのように堂々と勝利の握手をした。
「明日も勝ちますのでよろしくお願いします」ヒーローインタビューの最後に、久保田が珍しく叫んだ。本当はもっともっと大声で叫びたかったんだろうと思った。