自称阪神タイガース評論家（跡地）

　そんな前提で始まった試合、そのとおり序盤はスワローズペース。先発館山の前に４回までノーヒット、２回敵失でもらった走者も良太の併殺打でなくす準完全。

　とにかく併殺がキーになった試合だった。タイガースの先発は久々の久保。２回と４回、いずれもヒットと四死球で一死満塁で相川というピンチを迎えたが二度とも併殺で切り抜けた。３回ミレッジの右中間を破ろうという大飛球にポジショニング、スタート良く、走って走ってグラブの先ギリギリ追いつき、フェンスにぶつかってもボールを放さなかった大和の好守も光った。センター大和、課題があった後方の打球の追い方も経験を積んでカンペキになってきた。

　タイガースの先制も併殺絡み。５回表先頭新井が右前にチーム初ヒット。初球を狙った金本は大きめの左飛、打ち損じたという表情。良太が兄譲りのオーバーアクションを交えながら四球を選んで一死二塁、元気のない平野は投ゴロ、１−６−３とボール回ったがショート川端の送球が高く浮き、畠山がジャンプする間に平野が一塁を駆け抜けた。

　二死一三塁となって８番今成、ネクストには桧山が出て来る。さて今成敬遠なら勝負を賭けたか。久保の球数84、おそらくそのまま桧山を送ったと思う。しかしスワローズここは今成と勝負。もう一押しで攻略できそうな久保に続投して欲しいというのもあったろう。
　今成、２球で追い込まれた後、厳しいところをファールで逃げながらカウント２−２、７球目高めの直球を叩くと強いゴロが館山の左を抜け、二遊間へ、ショート川端足の運び悪くこの打球に倒れ込んでしまう。センター前タイムリー、スタートを切っていた平野は三進し、なお二死一三塁。一塁で今成力強くガッツポーズ。

　１点入ったことで、桧山はベンチに戻り、慌てて久保が打席へ。２球目、甘い直球をジャストミート、なんと打球は右中間方向へライナー性の連続タイムリー、久保も塁上で腕を上げベンチからの祝福に応じる。一走今成はスタートしていた。久保が振っていなければ、相手のミスを誘おうというプレーだったのだろう。どんどん積極的に走者を動かす気迫が２点を連れてきたようにも見えた。

　５回終了、試合成立で平野が一千試合出場の花束をもらう。元気ない昨今で、笑顔もなかったが丁寧に場内にお辞儀をし、ナインと握手を交わす。いい試合にしたいね。

　久保は二軍で強い球を投げる練習を重ねてきたということで、そのとおり球速も上がり、変化球も生きた。６回表、この試合始めて先頭を出したが、二ゴロ併殺。７回は代打藤本の痛烈な二遊間に鳥谷がドンピシャの横っ飛び、素速い送球でアウト、ファインプレー！バックに盛り立ててもらって７回無失点、復帰登板で結果を残した。

　しかし８回表に試合は暗転。二番手榎田が先頭田中に死球、川端の遊ゴロは華麗に６−４−３と回ったが、打球が緩すぎて惜しくも４つ目の併殺にはならず。そして畠山に外甘の直球を豪快にレフトスタンドに放り込まれる。あっという間に２−２同点。苦手館山につける●も、久保につく○も消えてしまった。

　８回ウラ先頭、榎田への代打柴田が四球で出たが、マートン見逃し三振、大和はセーフティ気味犠打で二死二塁、鳥谷に賭けたが、詰まり気味のヒットコースも極端な前進守備網にかかって中飛。

　９回表は福原。本来セオリーは強い投手から切っていくところだが、打順を見ての判断か。９回相手は８番から、こっちは４番から。５番金本はすでに浅井と交代、６番良太に当たりが出ておらず１０回が勝負と踏んだのか。試合はそのとおりに進んでいく。

　福原は相変わらず落ち着いた投球。二死からミレッジにクリーンヒットを打たれたが、これは相手を褒めるしかない。しかしここで盗塁企図を見透かしたナイス牽制でアウト（本当はノータッチっぽい）。

　スワローズは７回以後、正田、押本、日高と繋いで９回ウラはバーネット。一死から浅井が詰まりながら左前に落とすヒット、良太三振の二死後、平野が自らの記念日を祝福するヒットを中前に落とし、浅井ナイスランで二死一三塁。今成にサヨナラ打の期待がかかったが、ここは一ゴロでチェンジ、延長に入る。
　タイガース打線、ヒットの打球も含めて詰まり打球が多い。強く振る意識はいいが、全体にもう少しポイントを前に置くようにすべきだと思う。

　10回表は藤川、捕手小宮山。しかし先頭田中に内狙いが逆球になって右前に運ばれ無死一塁。代打バレンティンの初球、代走比屋根が楽々盗塁成功。走者のレベルが高いのもあるが、こっちのレベルも低すぎやしまいか。無死二塁、しかし代打バレンティン三ゴロで走者釘付け、ここは代打の人選も含めスワローズらしくなかったように思う。決定機背負うのもすっかり慣れた藤川、畠山三振、松井遊飛で切り抜ける。

　10回ウラ、マウンドに山本哲。藤川に代打桧山しかし空振三振で一死、この日元気のないマートンもカウント有利になったが結局補邪飛に倒れて二死。ここでもうタイムリミットまであと数分。スワローズベンチ、荒木コーチが出て引き分け狙いに入る。場内ブーイング。
　打席に向かう大和に片岡コーチが一声。微笑む二人。「ホームラン打って来い」だったそうだ。ナイス。カウント２−２、いわゆる「あと１球」の状況。もう「この回まで」は確定している。150km/hの外角直球をファールで逃げる。６球目外スライダー、食らいついて転がした打球はサード右を破る、ショート森岡が追いついて一塁送球するもヘッドスライディングの大和はすでに到達済み。

　最終回二死でも塁上に大和がいれば何かが起きる。何かが起こせるチームでは数少ない走者。リードを大きく取って盗塁を警戒させる。鳥谷の頭は盗塁警戒の真っ直ぐ狙い。スワローズの守備は長打警戒。サード宮本はライン際を締め、外野は深く下がり、絶対に破られない構え。バッテリーは牽制を重ね、大和への警戒を強め、鳥谷のカウントが悪くなり３−１。感じの出ていない新井より鳥谷の方が怖いが、ここで四球を出してしまっては、これほど盗塁を警戒した意味がない。５球目、直球が外角高めに浮く失投、鳥谷が待っていたのはこの球だった。しっかりステイバック、タイミングばっちり、上から被せるように強く叩き、左ひじを送り込むフォロー。鋭いライナーがレフト線に伸びる…フェアかファールか、ポール際でワンバウンド、フェア！クッションボールを待つレフトミレッジの思惑通りにならず、打球は金網に当たり、低くなってるフェンスの上をトントンと「尾根歩き」、慌てて捕りに行った時、大和はすでに三塁を回ろうというところ、送球はショート森岡が中継してバックホーム、ワンバウンド送球が捕手に到着するより先に大和が仰向けに滑り込み左手でベースタッチ！ホームイン、サヨナラ！大和は上体を起こして笑顔で一つぱちんと手を叩いた。

　さあベンチから歓喜の軍団が先陣争いの猛ダッシュ、ヒーロー鳥谷に駆け寄っていく。二塁を回ったところで勝利の瞬間を見届けた鳥谷の元に我先にと。小宮山が走る、良太が走る、今成、金本、平野、上本、柴田、浅井、筒井、加藤…遅れて榎田も、福原も、ブラゼルも…。抱き合い、手を上げて合わせる、弾ける笑顔…。

　平野のメモリアルゲーム（久々ヒット良かった）を、二遊間コンビを組む鳥谷が派手に祝福した。このメモリアルな一瞬。どうしても手元に置いておきたくなってしまった。

サンスポ「サヨナラ打を放ち、ナインと抱き合う鳥谷（撮影・白鳥恵）」
http://www.sanspo.com/baseball/photos/20120715/tig12071505050013-p1.html