自称阪神タイガース評論家（跡地）

　いきなり１回に２三振を奪って杉内に並ぶと、単独受賞を狙うことなく交代。相手は自ら登板機会をキャンセルしたのだから、そう気を遣わずに、せめてあと１回限定でチャレンジしても良さそうだけど。能見は別に「並び狙い」だったわけじゃないだろうが、これで十分と思ったのだろうね。奪三振王、初のタイトル獲得おめでとう！

　サブテーマ２は、メッセンジャーの１０勝目。これは、同じ１０勝目が賭かっている相手先発三浦を打たなきゃものにできない話で、メッセンジャーの好投よりも打つ方が問題だったのだけれども、２回早々にメッセンジャー自ら２点タイムリー二塁打で先制。以後もいつもどおり堂々とした投球でまったく危なげなく２安打、無四球投球で残り８回を投げきった。チーム最多、リーグ２位の196回と2/3を力を込めて、打てない日も打てない日も黙々と投げた姿は立派の一言。フタケタ勝利の勲章おめでとう！

　メインテーマは金本引退試合。できれば通算打点のランキングを一つでも上げて欲しいとチーム一丸となったけれどもそれはかなわなかった。４番レフトで先発し、二度の得点機。三浦も自身のため、金本のため、真剣勝負。…とはいえ、そこはプロ野球というものを知っている三浦大輔、実にバランスのいい投球をしていたと思うけれど、金本が仕留めきれなかった。引退しようという人にガツガツ記録を追わせるのもおかしな話、これでいいのだ。

　笑顔、笑顔。自分が主役の試合を心から楽しむ金本の笑顔。一人修行を積み重ねてきた男だけれど、目指していたのはチームのみんなで笑顔を爆発させること。

　６回の第３打席は先頭打者。追い込まれてからの外角高めをセンター前に合わせた。最後のヒットを満員の観衆の前で見せると、５番新井の初球に盗塁成功。００年に３割、３０本、３０盗塁を記録。カープらしい選手だった。タイガースに来てくれた当時は、まだそれを狙える選手だった。

　新井のセンター前、一瞬スタートが遅れたが久慈コーチはゴー、センター荒波ノーバウンドの好返球、金本最後は失速して本塁憤死でまた笑顔。

　金本はすごいところで打った。頼むという期待に応えて打った。なんとかしてくれと思うとなんとかしてくれた。自分を殺して繋いだ。チームのことを考えてプレーする選手だった。
　選手たちを食事に連れて行ったりして引っ張ることもあったというが、そういうウラの事情は知らない。私が知っているのは、走塁でチームを引っ張った金本だ。

　併殺を防ぎ、一つでも前の塁を狙い、一気に勝負を賭ける走塁。主軸を打つ金本の走りで何度タイガースナインは奮起したことか。打てる選手はたくさんいたけれど、ここまでチームのために走った強打者はそういない。
　アウトにはなったけれどもそれを思い出させてくれたプレーだった。

　ずっと送り続けられる大声援。それに応える金本の笑顔、笑顔。

　大和、鳥谷が繋いだ７回ウラ二死一三塁。最後の打席もキャッチャーフライに終わる。引退する打者の打撃だった。サバサバした笑顔だった。

　よくレフトフライが飛んできた。それを狙ったのかたまたまか。９回表二死、荒波の打球は左中間浅いフライ。ダッシュする金本が声を出して手を上げる。キャッチ。くるっと外野スタンドに振り向いてボールの入ったグラブを掲げる。０５年の優勝も最後ボールは金本のグラブに収まって、大喜びでかけてきた。ちゃんとその時その時のことを思い出させるように試合が進むのが面白い。

　感謝の気持ちを述べた金本の挨拶、その最後の感謝は「野球というスポーツ」そして「野球の神様」へのお礼だった。優勝決定ボール、引退試合ウィニングボールが金本のグラブに吸い込まれるのは偶然ではなかったのだろうと思う。

　抜けるような笑顔と、日本一を掴めなかった悔恨と、後輩たちへの期待を甲子園球場に残して、阪神タイガース２０００年代初頭「黄金の１０年」を作った金本知憲が現役を終えた。

　お疲れさまでした。タイガースに来てくれてありがとう。