2007.09.08 Saturday
元もとこの時期の首位攻防戦、0.5ゲーム差に肉薄するか、2.5ゲーム差に引き離すか、その意味は単純な1試合とは違った。だが、両チームともまだ20試合以上を残している段階で、物心とも戦略的資源を無尽蔵に投下はできない。しかし試合が進むにつれ、この戦いの持つ意味は、指揮官や戦士たちが考えていた以上に大きな意味を持つことになる。
1回表、G先発パウエルの制球が乱れるところを、鳥谷四球、赤星犠打、一死二塁。まだ試合開始早々、球場全体で見れば、まだ席が埋まりきっていない。しかしレフトスタンドを始め左側のボルテージはもうかなり上がっている。スゴイよ君ら(笑)。この試合、ファンの力は大きいよ。シーツはボール球に手を出してパウエルを助けていたが、追い込まれてからのアウトローに素直に反応し、投手足元を鋭く抜く。二走鳥谷素晴らしいスタートから三塁を回る、ホリンズから矢のような好返球、しかし鳥谷速い、魚雷のように、速度を下げることなくホームベースを滑り抜ける。タイガース先制。つないで先制、そして逃げ切りへ。タイガースの戦略のまま試合が始まった。
T先発ボーグルソンは静かな立ち上がり。しかし今日は良いぞという時は、決まってストライクストライクと切り込んでいくのに、この日はボールボールという入りが気になる。もちろん武者震いするような試合に意識が過敏になっているのだろう。二死後、そんな投手心理を知ってか知らずか、いや高橋由は頭で考えて打つ打者じゃない、敵と相対した感覚で振る天才白兵戦士。タイミングが合うはずのない初球チェンジアップをジャストミート、ライト中段へ同点ソロHR。空を制圧するのがジャイアンツの戦略。さすがにドラゴンズから首位を守り抜いているチームだ、タイガースの思惑通りにさせない。
ボーグルソンがいつものように自信満々でいけなかったのは、やはり速球の走りが悪かったからだろう。真ん中から外寄り低めにビシッと放っておけば自分のペースという、強気のボーグルソンを引き出す前に、2回ウラ先頭李にインロー直球をライトに逆転ソロHR、さらに一死後ホリンズにアウトハイ直球をライトにソロHR。そんなに気持ちよく振らせちゃいけない。1−3。
一方G先発パウエルはまったく良くない。タイガース各打者もしっかりボールを見て、カウント有利としてから狙い球を振って行く「加圧式」の打席を重ねてはいるが点にならない。
そうこうしているうちに、4回ウラ李が低めの変化球を2本目のHRで1−4。この特殊な戦場では、ラインドライブの低いやつだろうが、こすり打ちの高いヤツだろうが、なんでもHRになっちまう。振らせないことだ。
動揺したかボーグルソンはヒットと二塁打で一死二三塁、打者パウエル。カウント2−2からスクイズ!しかしこれは矢野が読んでいて、ウェスト!ランナー挟んでタッチアウト!あれ?パウエル三振でチェンジちゃうん?リプレイで見ると、なんとパウエルウェストボールに対してバットを引いている。スクイズで引いてどうすんだ?とりあえず二死三塁に変わって、あらためて三振でチェンジ。まあ投手には求めすぎのプレーだとは思うが、引くのはマズい。
3点差で止まって、タイガースにとってはまだまだ行ける範囲。5回表、先頭関本が加圧式で四球。続投ボーグルソン綺麗に送って一死二塁。良いよ。1点ずつが大事。鳥谷初球のカーブを狙って一二塁間を抜く、ランナーはストップで一死一三塁。赤星も初球のチェンジアップをレフト前へ!2−4!おお、良いねえ、素晴らしいファストブレイクだ!なお一死一二塁。チャンスマーチの中、シーツの当たりは良くなかったが、三遊間の真ん中、二岡なんとか追いついて三塁に投げたが鳥谷滑り込んでセーフ!内野安打で一死満塁。コツコツ、ジワジワ、パウエルを攻め立てる。打者金本。さあ行くぜ!「わっしょいわっしょい」ジャイアンツの打球に支配されていたドームの空は今タイガースファンの声援が制圧した。
この期に及んで変化球で誘いをかけるバッテリー、危うく誘いに乗りそうになりながらバットを止める金本。カウント0−2となったところでもう投手は苦しい。1−3から最後は直球で攻めきれず押し出し。3−4、なお一死満塁となって投手交代、西村へ。打者桜井。
西村もさすがは前日Dとの死闘を締めた投手、この場面で臆することなく桜井を追い込む。しかし桜井も負けてない。前日までの不調はウソのように、気合十分で厳しい球をファールでかわしていく。加圧式に入ったところ、シュートが抜けて桜井の腰へズドン死球。連続押し出しで4−4同点。続く葛城もカウント0ー2まできっちり見て、3球目の甘めの直球を強振、投手のグラブを弾いてコロコロと転がって二ゴロ、1点追加5−4再逆転!さらに二死二三塁、矢野、さあ行け行け!あー遊ゴロ。だけど立派な攻撃だった!
でもここを最後踏ん張った西村も立派だったんだ。もう1本出て7−4にしてれば、おそらくこの後の試合はなかったと思う。5回ウラ、ボーグルソン。タイガースもね、正直きついのよ。先発が踏ん張ったという形にこだわった岡田監督の気持ちは良くわかるが、まさかここで高橋由に再々逆転の2ランHRを食うとはねぇ。2−3からのチェンジアップ、決して甘い球じゃないけれど、前で裁きながらなおかつ左腕で押し込んでいける、これは技術の一発だ。痛恨、5−6。タイガース戦士たちは5回表、あちこちの海岸から主戦場に上陸を果たし旗を立てたが、空は完全にジャイアンツに握られたままだった。
投手交代、江草。簡単に小笠原、阿部を打ち取る。
6回表は西村がT打線を三者凡退、ウラはダーウィンが0に抑える。
7回表、Gは山口にスイッチ。Gも苦しい。まだ3連戦の初戦で、西村を無理使いはできない。Tにしてみればここが攻め時、先頭赤星がプレッシャーかけまくりの四球。G四球出し過ぎと言うが、それだけ打者からの甘いヤツは叩くオーラが出ていたということ。ただしシーツを除く(笑)。ボール球に唯一手を出しまくっていて、三振。スライダーの軌道を一つ一つチェックしていく「ミスターオーラ」金本には一つもストライクが入らず四球で一死一二塁。打席に桜井。場内からチャンスマーチ。初球は直球決め打ちでカーブを空振り。ここはこれで良い。うかつに甘い直球を投げられないというプレッシャーをかけられる。じりっじりっ、1−2からのシンカーは良いところに決まる。余裕の見逃し。さあ次だ。シンカーが甘く入る、バットの先で運ぶ、ショートの頭の上、レフト前ヒット!赤星好スタートから三塁を回る、レフト谷バックホームワンバウンドでやや三塁寄り、捕手阿部倒れ込むように捕りに行く、そこへ凄いスピードの赤星が覆い被さる阿部を下からまくり上げる、ボールを捕れないホームイン!凄いランニングだ赤星、6−6同点!しかし…ああ、赤星が立てない。練習前から気圧の関係で痛いと言っていた首の傷に衝撃が走ったのだろう。赤星大丈夫か。なんとか立ち上がって、ゆっくりとベンチに下がる。赤星が身を削って奪った1点で同点。もともと負ける気なんてさらさらないが、こうなったら何があっても負けられない。
なお一死一二塁、代打高橋光、投手交代吉武。タイガースにとってもジャイアンツにとっても勝負はこの回だ。行くしかない。「わっしょいわっしょい」初球を三遊間!なんという勇気。甘い球は打つ。ボールは打たない。シンプルすぎて難しいことを簡単にやってのける。一死満塁。終わらない「わっしょい」。カウント2−1、乗れない矢野だが、この雰囲気の中なら勝負強い矢野が戻っているはずだ。甘い半速球をセンター前、一人ホームイン、センターホリンズのチャージが緩い、二走桜井も三塁を回る、ちんたらした捕球からホリンズがバックホーム、なに?マウンドの先でワンバウンドさせた完璧な送球がストライクで戻る。桜井も素晴らしいスピードで本塁に滑り込んだがタッチアウト。再々々逆転7−6だが、これは参った。試合を決めにかかったところで出足払い、あるいは進軍経路に巧みな罠を仕掛けられた感じ。もちろんこの突入はOKなんだけどね。まだまだという「わっしょい」の中、関本がこれ以上ないというショボさの一ゴロでチェンジ(笑)。タイガースの気持ちの強い攻撃、しかし負けましたと言わないジャイアンツ。
さあしかし7回ウラ。もうこうなりゃいくしかないなJFK。まずは1番からでジェフ登場。谷三振、粘る大道も三振、そして怖い高橋由を二ゴロ三者凡退に片付ける。しかし高橋の打席で、足に異常があったようでトレーナーが出てくる一幕がある。赤星ともども大事ないことを願う。
8回表、ジャイアンツのマウンドは前田。1点ビハインドのこの試合で前田か。捨ててはいないが、JFKが出る展開になって、豊田、上原を無理使いせず明日あさってにつなげるということか。ならば遠慮なく決めさせてもらおう。藤本詰まりながらも中前、鳥谷送って、赤星。投ゴロで二走藤本が飛び出したが、上手く挟まれる間に赤星が二進、二死二塁。シーツを迎えて投手は三木にスイッチ。Gも苦労のやり繰りだ。シーツ三遊間を抜いて二死一三塁、金本。しかし原監督も開き直っちゃうと急に強くなる監督だ。勝敗よりも三木に痺れるような経験をさせようということだろう。なかなか思いっきり良く金本を攻める。だけど打ち取られそうな気配はなかったね。6球目、甘い変化球をセンター前へ、貴重な追加点で8−6!ボギーが打たれた5HR以後、Tリリーフ陣がピシャリとGの流れを止めている。これで決まったろう。それにしても三木、ははあ、最後の球はナックルか。フェルナンデスからの連想ゲームか。そら甘いわ。too sweetやわ。二死一二塁、チャンステーマ、さあ桜井続け!ありゃ三振。ま、ええわ。でもこれがちっとも良くなかったんだなぁ…(笑)。
8回表久保田登場。ピシャッと行こう。小笠原を初球一ゴロ、良いぞ!いやあ、気分良いね〜。ここまでG11安打、T12安打。なんとGは5HRに1二塁打なのに、Tはぜーんぶシングル!シングル12本で8点取って、5HR打ったチームを凌駕する。こんなに気持ち良いことはない。阿部も2球目で一ゴロ。ナイス、久保田!さあ李、注意しろよ。3球目スライダー、膝元に落とすつもりが甘くなる、パカーン。あー行っちゃった。今日3本目?7−8。あー、さっき1点取っておいて良かったわ。もうホント、イヤだね、この球場とG打線は。苦労して苦労して点をとったのに、パカーンと返されちゃう。ただ言えることは、西村の踏ん張り、ホリンズの好守、三木の頑張りが生きて、まだ死なないという雰囲気を作ったということだ。
さあ、久保田ソロHRならOKだ、切り替えていこう。二岡に初球高め直球ボール球を空振り、ずいぶん振ってきている。2球目外へ直球ボール。あ、ちょっと待ってバッテリー、ゆっくりゆっくり、ここは時間かけて、早く終わろうとするな…あっ、外高めのまっすぐ、右中間…入っちゃった同点HR。オートマチックに3球とも外角低めに直球を要求した矢野、そのうち2つを高めに浮かせてしまった久保田、最後の球はストライク。二岡がもっとも得意なコースだ。HRだけは打たせてはいけない状況で、もっともHRになる球を投げた久保田、なる危険性のある球を要求した矢野。何かエアポケットの中にいるようだった。ここで目が覚めても時既に遅し、ゲームプランがずたずたになる8回ウラ同点連続HR。13安打のうち7本がHR。そら追いつくわな。チッキショー。
呆然とする久保田に、駆け寄る久保コーチ。しかしジャイアンツのゲームプランも変わるんだろうね、尾花コーチが原監督と打ち合わせする。
ホリンズ四球。これまで7四死球をもらったタイガース、出したのはこれが初めて。それが決勝点になったりしたらシャレにならん。代走鈴木尚か、イヤだな。ところが鈴木が勝負してこない。前日D戦で盗塁死しているから慎重になっているんだろうか。二死一塁で、代打矢野。久保田頑張れ。もうそれしかない。初球スライダー、腕がしっかり振れていない。頑張れ久保田。今年こうやって優勝争いができているのも、全部久保田のおかげなんだ。久保田が辛くても負けていても、文句一つ言わずに強いボールで相手を黙らせてくれたから、こうやって今首位攻防戦ができているんだ。ここで打たれて負けたって、誰も久保田を責めやしない。思い切って投げ込んでやれ。2球目、会心のスライダーがボールの判定。カウント0−2。頑張れ久保田、いや頑張ってるよな、久保田くらい頑張っている選手はいないよな、そんな久保田に頑張れなんて言えやしないんだけど、そうとしか言えないんだよ。だから頑張れ久保田。一塁走者をじろりと見てど真ん中にまっすぐ143km/h。前日はもう10km/h速かった。でも強い気持ちで投げたらバックネットを越えるファールになった。追う矢野。矢野、冷静にリードしてやってくれ。盗塁を刺してやってくれ、久保田を守ってやってくれ。この試合、久保田を負け投手にしちゃダメだ。絶対にダメだ。4球目インコース低めへスライダー。ナイスボール、そこは手を出してこない。カウント2−2。矢野は真ん中よりほんの少し外に構える。矢野にしてみればど真ん中ということか。5球目、精一杯の直球はインハイへ、空振り三振!146km/hしか出なくてもそれが久保田の意地だ。頑張った!久保田頑張った!
なあ、今日は本当にすまんと思う。打っても打ってもパカーンとやられてしまってな。だけど今年1年ずっとあったことを考えてみろよ。今日だけは、JFKを、久保田を助けてやろう。この9回表、絶対に1点取ろう。
9回のマウンドに上原。前日延長で2回を投げ、試合展開から今日は出番なしと思っていただろう。タイガースは久保田に代わる代打桧山。よし、桧山だ。桧山が出ればまた試合は変わる。いや桧山がHR打っちゃえば良いんだ。初球外角直球。さすがにコントロールが良い。2球目インハイ直球空振り。うう、仕留めたかった!カウント2−0。さあフォークを見極めて、食らいついていけよ。3球目、阿部はミット地面にポンポン、フォークと思わせてインハイへ直球、ボール。こしゃくな。さあまっすぐが3つ続いた。次はフォークで空振りを取りにくるか。4球目フォークが来た、やや高い、左手を離し、右手一本でヘッドを走らせる、綺麗に当てたが高く上がった、ライトバック、フェンスにつく、見上げる、入ったホームラン!なんということだ。タイガースファンならみんな知っている、泳がされた桧山が、苦し紛れに右手一本で打ち上げた飛球は力無く失速することを。球場の狭さにももちろん助けられたが、完全に崩されながら、右手一本になりながら、少しでも素速く振り切ろう、少しでも下半身の力を伝えようという気持ちがフェンスを越えさせた。
一塁をまわったところでガッツポーズ。よう打ったな、桧山。ホンマモンの代打になったことはわかっていたけど、ここで打てるんだからやっぱり桧山は大スターだよ、人気者だよ。はにかんだような少年の笑顔で、いくつになってもファンを魅了する可愛い男だよ。岡田監督ありがとう。今日は心から言うよ。桧山を使い続けてくれて、ホンマモンの代打にしてくれて。あの日思っていたようにホンマモンの虎の4番にはなれなかったけど、こんなすごい仕事ができる打者になったんだから。これからももっともっと凄い一打を見せてくれよ。
左中間を鋭く襲う桧山の最高の打球ではなく、大きく崩されながら泥臭く運んだギリギリのホームラン。これは桧山一人で打ったホームランじゃなかったんだろう。久保田に感謝したくて、久保田を励ましてやりたくて、そんなチーム全員の気持ちで押し込んだホームランだった。そして、完全に制圧されていたはずの屋根の下の空に、ほんの一筋の道だけ、桧山のギリギリのHRが通る道だけ通っていたんだ。
笑顔でチームメイトとハイタッチ、ヘルメットを強く叩かれて、目が隠れてもそのままにしておくお茶目なベテラン。ホント、よう打った。
この日T初めての長打が、絶対的クローザー上原をガックリさせた。こうなりゃG初めての連打による得点で同点、逆転サヨナラなーんてことだけは絶対にさせちゃいけない。
藤川だって連投連投できついけど、もう行くしかないもんね。頼むわ、球児。
さすが球児、落ち着いて変化球を交えながら、谷・古城・高橋由を三者凡退に退ける。
スコアは9−8。ヒットは13本ずつ。HRはG7:T1。与四死球もG7:T1。空中戦得意のG、泥臭い戦いのT、双方が東京ドームという特殊な戦場を舞台に繰り広げた壮絶な打撃戦。ただその競り合いを作ったのは、あと一歩を防ぐディフェンスだったと思う。
最後こそふわっとした桧山の打球で決着をつけたが、目を閉じれば、白いホームベース目がけ鋭く斬りつけるようなスライディングをする鳥谷の先制ホームインが目に浮かぶ。小さな赤星がベースをふさぐ阿部捕手をスピードでまくり上げるホームインが目に浮かぶ。際どいタイミングでも果敢にホームベースにチャレンジする桜井が目に浮かぶ。
甘い球を逃さずに強く打ち、果敢に次のベースを攻める。勇気に満ちあふれた見事な戦いぶりだった。この圧倒的に地形的不利のある特殊な戦地で、その勇気を奮い立たせたのはタイガースファンの声援だった。どんなにHRで制空権を支配されても、中に満たされている空気だけは一度たりとも渡しはしなかった。「空を制圧する」本当の意味はこれだったんだね。声の限りに気迫を注入したファン、9/7東京ドームで声援を送り続けたタイガースファンに最大限の敬意を表したい。
今年の道はまだまだ険しい。2年前の9/7のように、これですべてが決まるとはとても思えない。でもタイガースは負けないよ。チームはファンも含めて戦っているんだ。この戦いができるチームなら負けない。
1回表、G先発パウエルの制球が乱れるところを、鳥谷四球、赤星犠打、一死二塁。まだ試合開始早々、球場全体で見れば、まだ席が埋まりきっていない。しかしレフトスタンドを始め左側のボルテージはもうかなり上がっている。スゴイよ君ら(笑)。この試合、ファンの力は大きいよ。シーツはボール球に手を出してパウエルを助けていたが、追い込まれてからのアウトローに素直に反応し、投手足元を鋭く抜く。二走鳥谷素晴らしいスタートから三塁を回る、ホリンズから矢のような好返球、しかし鳥谷速い、魚雷のように、速度を下げることなくホームベースを滑り抜ける。タイガース先制。つないで先制、そして逃げ切りへ。タイガースの戦略のまま試合が始まった。
T先発ボーグルソンは静かな立ち上がり。しかし今日は良いぞという時は、決まってストライクストライクと切り込んでいくのに、この日はボールボールという入りが気になる。もちろん武者震いするような試合に意識が過敏になっているのだろう。二死後、そんな投手心理を知ってか知らずか、いや高橋由は頭で考えて打つ打者じゃない、敵と相対した感覚で振る天才白兵戦士。タイミングが合うはずのない初球チェンジアップをジャストミート、ライト中段へ同点ソロHR。空を制圧するのがジャイアンツの戦略。さすがにドラゴンズから首位を守り抜いているチームだ、タイガースの思惑通りにさせない。
ボーグルソンがいつものように自信満々でいけなかったのは、やはり速球の走りが悪かったからだろう。真ん中から外寄り低めにビシッと放っておけば自分のペースという、強気のボーグルソンを引き出す前に、2回ウラ先頭李にインロー直球をライトに逆転ソロHR、さらに一死後ホリンズにアウトハイ直球をライトにソロHR。そんなに気持ちよく振らせちゃいけない。1−3。
一方G先発パウエルはまったく良くない。タイガース各打者もしっかりボールを見て、カウント有利としてから狙い球を振って行く「加圧式」の打席を重ねてはいるが点にならない。
そうこうしているうちに、4回ウラ李が低めの変化球を2本目のHRで1−4。この特殊な戦場では、ラインドライブの低いやつだろうが、こすり打ちの高いヤツだろうが、なんでもHRになっちまう。振らせないことだ。
動揺したかボーグルソンはヒットと二塁打で一死二三塁、打者パウエル。カウント2−2からスクイズ!しかしこれは矢野が読んでいて、ウェスト!ランナー挟んでタッチアウト!あれ?パウエル三振でチェンジちゃうん?リプレイで見ると、なんとパウエルウェストボールに対してバットを引いている。スクイズで引いてどうすんだ?とりあえず二死三塁に変わって、あらためて三振でチェンジ。まあ投手には求めすぎのプレーだとは思うが、引くのはマズい。
3点差で止まって、タイガースにとってはまだまだ行ける範囲。5回表、先頭関本が加圧式で四球。続投ボーグルソン綺麗に送って一死二塁。良いよ。1点ずつが大事。鳥谷初球のカーブを狙って一二塁間を抜く、ランナーはストップで一死一三塁。赤星も初球のチェンジアップをレフト前へ!2−4!おお、良いねえ、素晴らしいファストブレイクだ!なお一死一二塁。チャンスマーチの中、シーツの当たりは良くなかったが、三遊間の真ん中、二岡なんとか追いついて三塁に投げたが鳥谷滑り込んでセーフ!内野安打で一死満塁。コツコツ、ジワジワ、パウエルを攻め立てる。打者金本。さあ行くぜ!「わっしょいわっしょい」ジャイアンツの打球に支配されていたドームの空は今タイガースファンの声援が制圧した。
この期に及んで変化球で誘いをかけるバッテリー、危うく誘いに乗りそうになりながらバットを止める金本。カウント0−2となったところでもう投手は苦しい。1−3から最後は直球で攻めきれず押し出し。3−4、なお一死満塁となって投手交代、西村へ。打者桜井。
西村もさすがは前日Dとの死闘を締めた投手、この場面で臆することなく桜井を追い込む。しかし桜井も負けてない。前日までの不調はウソのように、気合十分で厳しい球をファールでかわしていく。加圧式に入ったところ、シュートが抜けて桜井の腰へズドン死球。連続押し出しで4−4同点。続く葛城もカウント0ー2まできっちり見て、3球目の甘めの直球を強振、投手のグラブを弾いてコロコロと転がって二ゴロ、1点追加5−4再逆転!さらに二死二三塁、矢野、さあ行け行け!あー遊ゴロ。だけど立派な攻撃だった!
でもここを最後踏ん張った西村も立派だったんだ。もう1本出て7−4にしてれば、おそらくこの後の試合はなかったと思う。5回ウラ、ボーグルソン。タイガースもね、正直きついのよ。先発が踏ん張ったという形にこだわった岡田監督の気持ちは良くわかるが、まさかここで高橋由に再々逆転の2ランHRを食うとはねぇ。2−3からのチェンジアップ、決して甘い球じゃないけれど、前で裁きながらなおかつ左腕で押し込んでいける、これは技術の一発だ。痛恨、5−6。タイガース戦士たちは5回表、あちこちの海岸から主戦場に上陸を果たし旗を立てたが、空は完全にジャイアンツに握られたままだった。
投手交代、江草。簡単に小笠原、阿部を打ち取る。
6回表は西村がT打線を三者凡退、ウラはダーウィンが0に抑える。
7回表、Gは山口にスイッチ。Gも苦しい。まだ3連戦の初戦で、西村を無理使いはできない。Tにしてみればここが攻め時、先頭赤星がプレッシャーかけまくりの四球。G四球出し過ぎと言うが、それだけ打者からの甘いヤツは叩くオーラが出ていたということ。ただしシーツを除く(笑)。ボール球に唯一手を出しまくっていて、三振。スライダーの軌道を一つ一つチェックしていく「ミスターオーラ」金本には一つもストライクが入らず四球で一死一二塁。打席に桜井。場内からチャンスマーチ。初球は直球決め打ちでカーブを空振り。ここはこれで良い。うかつに甘い直球を投げられないというプレッシャーをかけられる。じりっじりっ、1−2からのシンカーは良いところに決まる。余裕の見逃し。さあ次だ。シンカーが甘く入る、バットの先で運ぶ、ショートの頭の上、レフト前ヒット!赤星好スタートから三塁を回る、レフト谷バックホームワンバウンドでやや三塁寄り、捕手阿部倒れ込むように捕りに行く、そこへ凄いスピードの赤星が覆い被さる阿部を下からまくり上げる、ボールを捕れないホームイン!凄いランニングだ赤星、6−6同点!しかし…ああ、赤星が立てない。練習前から気圧の関係で痛いと言っていた首の傷に衝撃が走ったのだろう。赤星大丈夫か。なんとか立ち上がって、ゆっくりとベンチに下がる。赤星が身を削って奪った1点で同点。もともと負ける気なんてさらさらないが、こうなったら何があっても負けられない。
なお一死一二塁、代打高橋光、投手交代吉武。タイガースにとってもジャイアンツにとっても勝負はこの回だ。行くしかない。「わっしょいわっしょい」初球を三遊間!なんという勇気。甘い球は打つ。ボールは打たない。シンプルすぎて難しいことを簡単にやってのける。一死満塁。終わらない「わっしょい」。カウント2−1、乗れない矢野だが、この雰囲気の中なら勝負強い矢野が戻っているはずだ。甘い半速球をセンター前、一人ホームイン、センターホリンズのチャージが緩い、二走桜井も三塁を回る、ちんたらした捕球からホリンズがバックホーム、なに?マウンドの先でワンバウンドさせた完璧な送球がストライクで戻る。桜井も素晴らしいスピードで本塁に滑り込んだがタッチアウト。再々々逆転7−6だが、これは参った。試合を決めにかかったところで出足払い、あるいは進軍経路に巧みな罠を仕掛けられた感じ。もちろんこの突入はOKなんだけどね。まだまだという「わっしょい」の中、関本がこれ以上ないというショボさの一ゴロでチェンジ(笑)。タイガースの気持ちの強い攻撃、しかし負けましたと言わないジャイアンツ。
さあしかし7回ウラ。もうこうなりゃいくしかないなJFK。まずは1番からでジェフ登場。谷三振、粘る大道も三振、そして怖い高橋由を二ゴロ三者凡退に片付ける。しかし高橋の打席で、足に異常があったようでトレーナーが出てくる一幕がある。赤星ともども大事ないことを願う。
8回表、ジャイアンツのマウンドは前田。1点ビハインドのこの試合で前田か。捨ててはいないが、JFKが出る展開になって、豊田、上原を無理使いせず明日あさってにつなげるということか。ならば遠慮なく決めさせてもらおう。藤本詰まりながらも中前、鳥谷送って、赤星。投ゴロで二走藤本が飛び出したが、上手く挟まれる間に赤星が二進、二死二塁。シーツを迎えて投手は三木にスイッチ。Gも苦労のやり繰りだ。シーツ三遊間を抜いて二死一三塁、金本。しかし原監督も開き直っちゃうと急に強くなる監督だ。勝敗よりも三木に痺れるような経験をさせようということだろう。なかなか思いっきり良く金本を攻める。だけど打ち取られそうな気配はなかったね。6球目、甘い変化球をセンター前へ、貴重な追加点で8−6!ボギーが打たれた5HR以後、Tリリーフ陣がピシャリとGの流れを止めている。これで決まったろう。それにしても三木、ははあ、最後の球はナックルか。フェルナンデスからの連想ゲームか。そら甘いわ。too sweetやわ。二死一二塁、チャンステーマ、さあ桜井続け!ありゃ三振。ま、ええわ。でもこれがちっとも良くなかったんだなぁ…(笑)。
8回表久保田登場。ピシャッと行こう。小笠原を初球一ゴロ、良いぞ!いやあ、気分良いね〜。ここまでG11安打、T12安打。なんとGは5HRに1二塁打なのに、Tはぜーんぶシングル!シングル12本で8点取って、5HR打ったチームを凌駕する。こんなに気持ち良いことはない。阿部も2球目で一ゴロ。ナイス、久保田!さあ李、注意しろよ。3球目スライダー、膝元に落とすつもりが甘くなる、パカーン。あー行っちゃった。今日3本目?7−8。あー、さっき1点取っておいて良かったわ。もうホント、イヤだね、この球場とG打線は。苦労して苦労して点をとったのに、パカーンと返されちゃう。ただ言えることは、西村の踏ん張り、ホリンズの好守、三木の頑張りが生きて、まだ死なないという雰囲気を作ったということだ。
さあ、久保田ソロHRならOKだ、切り替えていこう。二岡に初球高め直球ボール球を空振り、ずいぶん振ってきている。2球目外へ直球ボール。あ、ちょっと待ってバッテリー、ゆっくりゆっくり、ここは時間かけて、早く終わろうとするな…あっ、外高めのまっすぐ、右中間…入っちゃった同点HR。オートマチックに3球とも外角低めに直球を要求した矢野、そのうち2つを高めに浮かせてしまった久保田、最後の球はストライク。二岡がもっとも得意なコースだ。HRだけは打たせてはいけない状況で、もっともHRになる球を投げた久保田、なる危険性のある球を要求した矢野。何かエアポケットの中にいるようだった。ここで目が覚めても時既に遅し、ゲームプランがずたずたになる8回ウラ同点連続HR。13安打のうち7本がHR。そら追いつくわな。チッキショー。
呆然とする久保田に、駆け寄る久保コーチ。しかしジャイアンツのゲームプランも変わるんだろうね、尾花コーチが原監督と打ち合わせする。
ホリンズ四球。これまで7四死球をもらったタイガース、出したのはこれが初めて。それが決勝点になったりしたらシャレにならん。代走鈴木尚か、イヤだな。ところが鈴木が勝負してこない。前日D戦で盗塁死しているから慎重になっているんだろうか。二死一塁で、代打矢野。久保田頑張れ。もうそれしかない。初球スライダー、腕がしっかり振れていない。頑張れ久保田。今年こうやって優勝争いができているのも、全部久保田のおかげなんだ。久保田が辛くても負けていても、文句一つ言わずに強いボールで相手を黙らせてくれたから、こうやって今首位攻防戦ができているんだ。ここで打たれて負けたって、誰も久保田を責めやしない。思い切って投げ込んでやれ。2球目、会心のスライダーがボールの判定。カウント0−2。頑張れ久保田、いや頑張ってるよな、久保田くらい頑張っている選手はいないよな、そんな久保田に頑張れなんて言えやしないんだけど、そうとしか言えないんだよ。だから頑張れ久保田。一塁走者をじろりと見てど真ん中にまっすぐ143km/h。前日はもう10km/h速かった。でも強い気持ちで投げたらバックネットを越えるファールになった。追う矢野。矢野、冷静にリードしてやってくれ。盗塁を刺してやってくれ、久保田を守ってやってくれ。この試合、久保田を負け投手にしちゃダメだ。絶対にダメだ。4球目インコース低めへスライダー。ナイスボール、そこは手を出してこない。カウント2−2。矢野は真ん中よりほんの少し外に構える。矢野にしてみればど真ん中ということか。5球目、精一杯の直球はインハイへ、空振り三振!146km/hしか出なくてもそれが久保田の意地だ。頑張った!久保田頑張った!
なあ、今日は本当にすまんと思う。打っても打ってもパカーンとやられてしまってな。だけど今年1年ずっとあったことを考えてみろよ。今日だけは、JFKを、久保田を助けてやろう。この9回表、絶対に1点取ろう。
9回のマウンドに上原。前日延長で2回を投げ、試合展開から今日は出番なしと思っていただろう。タイガースは久保田に代わる代打桧山。よし、桧山だ。桧山が出ればまた試合は変わる。いや桧山がHR打っちゃえば良いんだ。初球外角直球。さすがにコントロールが良い。2球目インハイ直球空振り。うう、仕留めたかった!カウント2−0。さあフォークを見極めて、食らいついていけよ。3球目、阿部はミット地面にポンポン、フォークと思わせてインハイへ直球、ボール。こしゃくな。さあまっすぐが3つ続いた。次はフォークで空振りを取りにくるか。4球目フォークが来た、やや高い、左手を離し、右手一本でヘッドを走らせる、綺麗に当てたが高く上がった、ライトバック、フェンスにつく、見上げる、入ったホームラン!なんということだ。タイガースファンならみんな知っている、泳がされた桧山が、苦し紛れに右手一本で打ち上げた飛球は力無く失速することを。球場の狭さにももちろん助けられたが、完全に崩されながら、右手一本になりながら、少しでも素速く振り切ろう、少しでも下半身の力を伝えようという気持ちがフェンスを越えさせた。
一塁をまわったところでガッツポーズ。よう打ったな、桧山。ホンマモンの代打になったことはわかっていたけど、ここで打てるんだからやっぱり桧山は大スターだよ、人気者だよ。はにかんだような少年の笑顔で、いくつになってもファンを魅了する可愛い男だよ。岡田監督ありがとう。今日は心から言うよ。桧山を使い続けてくれて、ホンマモンの代打にしてくれて。あの日思っていたようにホンマモンの虎の4番にはなれなかったけど、こんなすごい仕事ができる打者になったんだから。これからももっともっと凄い一打を見せてくれよ。
左中間を鋭く襲う桧山の最高の打球ではなく、大きく崩されながら泥臭く運んだギリギリのホームラン。これは桧山一人で打ったホームランじゃなかったんだろう。久保田に感謝したくて、久保田を励ましてやりたくて、そんなチーム全員の気持ちで押し込んだホームランだった。そして、完全に制圧されていたはずの屋根の下の空に、ほんの一筋の道だけ、桧山のギリギリのHRが通る道だけ通っていたんだ。
笑顔でチームメイトとハイタッチ、ヘルメットを強く叩かれて、目が隠れてもそのままにしておくお茶目なベテラン。ホント、よう打った。
この日T初めての長打が、絶対的クローザー上原をガックリさせた。こうなりゃG初めての連打による得点で同点、逆転サヨナラなーんてことだけは絶対にさせちゃいけない。
藤川だって連投連投できついけど、もう行くしかないもんね。頼むわ、球児。
さすが球児、落ち着いて変化球を交えながら、谷・古城・高橋由を三者凡退に退ける。
スコアは9−8。ヒットは13本ずつ。HRはG7:T1。与四死球もG7:T1。空中戦得意のG、泥臭い戦いのT、双方が東京ドームという特殊な戦場を舞台に繰り広げた壮絶な打撃戦。ただその競り合いを作ったのは、あと一歩を防ぐディフェンスだったと思う。
最後こそふわっとした桧山の打球で決着をつけたが、目を閉じれば、白いホームベース目がけ鋭く斬りつけるようなスライディングをする鳥谷の先制ホームインが目に浮かぶ。小さな赤星がベースをふさぐ阿部捕手をスピードでまくり上げるホームインが目に浮かぶ。際どいタイミングでも果敢にホームベースにチャレンジする桜井が目に浮かぶ。
甘い球を逃さずに強く打ち、果敢に次のベースを攻める。勇気に満ちあふれた見事な戦いぶりだった。この圧倒的に地形的不利のある特殊な戦地で、その勇気を奮い立たせたのはタイガースファンの声援だった。どんなにHRで制空権を支配されても、中に満たされている空気だけは一度たりとも渡しはしなかった。「空を制圧する」本当の意味はこれだったんだね。声の限りに気迫を注入したファン、9/7東京ドームで声援を送り続けたタイガースファンに最大限の敬意を表したい。
今年の道はまだまだ険しい。2年前の9/7のように、これですべてが決まるとはとても思えない。でもタイガースは負けないよ。チームはファンも含めて戦っているんだ。この戦いができるチームなら負けない。