自称阪神タイガース評論家（跡地）

　小宮山が捕ってさえいれば、前に落としてさえいればゲームセットだ、確かに。それについては、しっかりしろ以外の言葉はない。
　しかし二死走者なし、９番打者からの３連打、さらにはダブルスチール成功で、榎田小宮山のバッテリーはどんどん冷静さを失い、重圧に追い込まれていった。逆に言えば、追いつめられたギリギリの状態を切り返した、迎、天谷、そして代打として送られ殊勲のタイムリーを放った新人の菊池が大きな仕事をしたと言えるし、その人選やバッテリーの経験のなさを衝いた重盗サインでさらに攻めたてた野村監督の思い切った迫力に飲まれた。

　経験のない榎田に対して、ベンチもいい間を取っていたし、新井も鳥谷もしっかり体に触れながらアドバイスしていた。一体となって勝とうという気持ちを伝えていたのは良かった。

　榎田が僅差のクロージングに失敗するのは仕方ないことだと思う。早く試合を終わらせたいという気持ちが球を甘くする。誰だってそんな痛い思いをして、眠れない夜を越えて強くなるんだから。小宮山もそう。なぜ捕れなかったのか。なぜ連打を止められなかったのか。何がいけなかったのか。どこから狂ったのか。次はどうしたらいいのか。
　一回の失敗で終わってしまう選手なら、それはもうプロ野球選手に向かない。二人とも素晴らしい素質を買われて大事なところで起用されている。期待が大きい選手たち。負けるなよ。

　試合中盤から４点目が取れない裏目裏目の攻撃が痛かった。個々の戦術選択を見れば間違いではなくても、好機を作れば作るほどどんどん相手に主導権が渡ってしまった結果が、ヒラメキや現場感覚の弱さを物語る。もちろん技術不足や準備不足もあるが、それを含めてサインを出していかなければ仕方ない。

　チャンスを繋いで、新井、金本、マートンのタイムリーで得点を重ねた前半は良かった。精密さはなかったが、パワフルに７回途中まで抑え込んだスタンリッジも、最近の先発陣の軟調を止めるナイスピッチングだった。

　なによりスタンリッジが残した７回表一死二三塁、一打同点のピンチで故郷のマウンドに登った筒井が素晴らしかった。打率４割を越える脅威の代打前田智に対して、ひるむことなく直球で挑み、ファール、ファールと押し込む。外、内と速い球を見せながら、最後は外にタテ落ちのスライダーを沈めてハーフスイング。速いタイミングに合わせるしかなかったからだろう。
　続く天谷には一転、ベース上のスライダーで追い込んで、まっすぐをギリギリで勝負。大ピンチでスカッと爽やか、故郷に錦を飾る二連続空振り三振。久々、文句なし。最高の投球だった。

　渡辺も慎重に慎重に繋いで、みんなで勝ち取ったいい勝利…あと１アウトからするりと逃げていった。呆然として、残念だったけど、これは必ず血となり肉となる負けだと思う。きっとそうなる。